第1回は、9/15, 16にそれぞれ駒場と本郷で行いました(^^)
市川伸一さん著
「学ぶ意欲とスキルを育てる―いま求められる学力向上策」
の1章と2章の頭の内容を元に、みんなで議論をしてみました。
特に盛り上がったのが、学習動機の2要因モデルを用いての、参加者の勉強動機の性向分析です。今日は、その紹介と、それを通して分かったことを皆さんにお伝えしたいと思います。
まずは内容の説明です。学習動機とは、それぞれの人が勉強、研究をする理由のことです。例えば、試験がそろそろだから、悪い点を取ると叱られるから/良い点を取ればお小遣いがもらえるから、勉強自身が楽しいからなどです。このうち、初めの2つは外発的動機づけと言います。外発的動機づけとは、物質的な賞罰、称賛、叱責など、外から与えられる目標を目当てに学習するときの動機のことです。大事なのは、「外から与えられる目標を目当てに」というところで、さっきの例では、試験や、(親、教師に)叱られる、小遣いをもらえるというのが該当します。これは20世紀初等に広く用いられていた動機付けの方法で、例えば、体罰による教育などはこれが根拠に有ります。
一方、勉強自身が楽しいからという動機は、内発的動機づけと言います。内発的動機づけとは、「知りたい」「できるようになりたい」と、学ぶことそれ自体の楽しさを求めて学習するときの動機のことです。この考え方は、1950〜60年代に広まったものです。
あなたが勉強/研究/仕事をする動機は外発、内発のどちらが強いでしょうか? この性向を把握すると、自分がどういう場面でテンションが上って勉強に取り組めるかがわかるので、モチベーション管理に持って来いだと思います。
さて、ここまでが、過去に用いられていた学習動機の分類です。これに対して、市川先生は学習動機の2要因モデルというものを提唱しました。これは、学習動機を外発的動機づけ、内発的動機づけの2項目だけではなく、学習の功利性と学習内容の重要性を用いて6つに分類するものです。
表1: 学習動機の2要因モデル
充実志向 | 訓練志向 | 実用志向 |
---|---|---|
学習自体が 楽しい |
能力を 鍛えるため |
仕事や生活に 活かす |
関係志向 | 自尊志向 | 報酬志向 |
他者につられて | プライドや 競争心から |
報酬を得る 手段として |
上段が、学習内容が重要な動機で、下段が学習内容が重要でない動機です。例えば、充実志向であれば、数学自体が楽しいから数学を勉強するというのが当てはまるのですが、同じ動機では英語は勉強できません。また、報酬志向では、試験で良い点を取ったら小遣いをもらえるから勉強するなどが当てはまりますが、この場合、試験科目が英語であるか数学であるかは問題になりません。また、この表で、右にあるものは学習の功利性が高く、左にあるものは学習の功利性はあまり高くありません。関係志向で、何となくみんなやってるから勉強する場合、それは何か利益を得るための行動ではありません。逆に、実用志向では、仕事に活かすために会計士の勉強をするなどが当てはまります。これは、仕事に活かして得られる利益が目的となります。ちなみに、左上に行くほど内発的動機付けに近く、右下に行くほど外発的動機づけに近くなります。
あなたはどの動機付けが強いでしょうか? 実は、これらは少しアンケートに答えると数値化してみることができます。たとえば、人材開発・組織開発コンサルタント「ZOFTY」の日記の学習同期の2要因モデルの記事に、チェックリストがあります。当てはまる動機に◯をつけ、それをカウントすると、自分がどの動機が強いかがわかります。これを元に、4件法のアンケートシートを作成し、メンバーで試してみました。あてはまるときに5、当てはまらない時に1、中間は2,4として丸をつけて、最後に総計しましょう。
(アンケートシートはここからDL可能。)
その結果、面白い考察が得られたので、少し紹介しようと思います。
このアンケートは、「東大生」で「まるきゅうProject所属」で「この勉強会に参加する」ような人21人を対象に行いました。(※今後、主語が東大生になりますが、サンプリングバイアスがかかっていることには注意) すると、関係志向、訓練志向が突出して高い人はほとんどいませんでした。東大生になるような人は、関係志向で、なんとなくみんなやってるから勉強してきたという人は少ないようです。(開成とか駒場東邦とか、そういう東大に毎年100人とか出す学校だと違うのかも?) また、訓練志向の人が少ないのはどういうことなのでしょうか。東大を狙うような人は既に頭がいいから、頭を訓練したいという動機で勉強することは少ないのでしょうか。ともかく、この2つ以外の強い動機で勉強してきた人が多いそうです。学習動機は個人の性向なので、変えようとして変わるものではないですが、東大を目指す高校生の方は参考にしてみてはいかがでしょうか。
また、自尊志向が高い人について、面白い考察が得られました。自尊志向とは、他人と勝負して勝ちたいから、人から尊敬されたいから、また、そうすることで自分を認めることができるからという動機づけを持つ性向のことです。東大生なので、それぞれ地元ではトップであったことが伺われます。特に若いころなどは、勝てるということと楽しいということとやりたいということが同値であったりします。(若くなくても?) そういう経験を積んできていれば、自然と自尊志向が強くなることは納得がいきます。しかし、そういう人も、東大に入ってきて、自分より圧倒的に勉強ができる存在に囲まれます。となると、自尊志向による動機づけはもはや通用しません。実際、東大に入ってぱったり勉強をやめてしまう人が一定数います。これが原因かどうかはわかりませんが、当てはまる人も少なくないのだろうと思います。よく、「東大までの人」なんて言われて煽られることもある我々ですが、自分の学習動機をうまく把握していたら、何らかの対策を打ってまた勉強にカムバックすることもできるかもしれません。
また、より面白かったのは、大学に入るまでは自尊志向が強かったが、大学に入っていこう充実志向や実用志向が強くなったという人が複数いた点です。学問そのものの面白さを思い出したり、大学で出会う学問に惹かれたりして充実志向になったり、資格試験の準備のために実用志向が高まるなどです。私なんかは前者です。東大の数学科に進学してから数学の勉強が楽しくないという事態に見舞われました。今思えば、圧倒的に数学が好きで、数学がデキる人に囲まれ、自尊志向での動機付けが立ち回らなくなったからでしょう。あれから6年(!)、最近は、数学自体の面白さを大事にしながら研究しています。おそらく、充実志向にシフトしたのでしょう。
さてさて、最後に、迷える大学生や、これから大学にはいる人に1つアドバイスしたいなと思います。
自分の学習動機の性向を把握しよう。できれば、そのなかの1つに頼り過ぎないよう心がけると良いよ!
1つに頼りすぎていたら、それが失われた時に立ちゆかなくなります。例えば関係志向が強く、憧れのあの人が一生懸命やってるから私も勉強してますなんて人は、今勉強ができている間に、勉強自体の面白さへの感受性を高めておくとか(充実志向)、将来それが何に役立つかを意識するとか(実用志向)しておけば、憧れのあの人との別れがあったあともうまく生きていけるんじゃないかななんて思います。
また、今はなんとなく勉強のやる気がでないあなたも、自分の学習動機の性向が分かったら、うまく勉強のモチベーションを維持できるようになるかもしれません。
思わぬ収穫が得られた第1回の勉強会でした。
学習動機の2要因モデルのチェックリストを友達とやってみて、性向が近い人とどういう時にテンションが上がるか話し合ってみると、めっちゃ楽しいらしいです。(僕は司会をしていたので参加できなかった!悔しい!) 気が向いたら真似してみてくださいね☆
学習動機の2要因モデルのチェックリストを友達とやってみて、性向が近い人とどういう時にテンションが上がるか話し合ってみると、めっちゃ楽しいらしいです。(僕は司会をしていたので参加できなかった!悔しい!) 気が向いたら真似してみてくださいね☆
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